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思いがけず傑作に出会う。「ウスサマ明王」吉岡 暁・著

思いがけず傑作に出会う。「ウスサマ明王」吉岡 暁・著_e0071603_19471597.jpg ちょっと前なんだが、そういや読んでなかったと思って、吉岡 暁「サンマイ崩れ」(角川ホラー文庫)を購入。何でこんな有名でもない作品を「そういや読んでなかった」なのかというと、ハイもうお分かり、第13回(2006年)日本ホラー小説大賞・短編賞受賞作なんですな。
 ホラー大賞も、大賞受賞作はだいたい読むし(あ、去年の「庵堂三兄弟の聖職」がまだだった!)、その他の賞も気になったものから読んでいくんだが、その順番はやっぱりタイトルで決まることが多い。次は宣伝文句か。「怖そうなもの」「面白そうなもの」から読んでいくのは、自然というものだろう。
 その点で、「サンマイ崩れ」はタイトルの印象が弱かった。パッと見、意味がつかめないし、カタカナの使いようがちょっとコミカルな印象も与える。この年は大賞がなくて、長編賞の「紗央里ちゃんの家」(矢部 嵩)も今年になってやっと読んだぐらい。それで短編賞がこれ、ということは、全体にインパクトが弱かった年という感じだろうか。
「サンマイ崩れ」は別にコミカルなわけではなく、わりあいオーソドックスな“怪談”で、ああ、短編賞ってこういう感じだよな、と。話も派手ではないが、しみじみと読ませる感じ。読んでからしばらくは他の本に移っていたりして、同時収録されていた「ウスサマ明王」は読まずに放っておいた。
「ウスサマ明王」に手をつけたのは、半ば偶然だった。他に読んでいた本を忘れて、移動中にたまたまカバンに入れっぱなしにしていたこの文庫本を手に取ったからだ。そういやもう一編あったのを読んでなかったっけ、と。実はこういうことは結構あって、短編集なんかだと表題作と何かの受賞作しか読んでなかった、とか。そんなわけで、表題の「サンマイ崩れ」よりもかなり長く、中編と呼んだ方がいい分量の「ウスサマ明王」を読み始めたのだ。ま、これも最初はあまり気乗りはしていなかった。やっぱりカタカナ混じりのタイトルで、あと恥ずかしながら「ウスサマ明王」という名前を知らなかったこともあって(知ってたらまた違う印象で敬遠してたかもしれないが)。
 そしたら! これが、読み始めたらすぐにハマってしまった。「サンマイ崩れ」とは全く作風の異なるハードアクション・モンスター・パニックホラーだったからだ。そこに、因縁としてウスサマ明王(密教の五大明王の一人)が時空を超えて絡んでくる。特に中盤以降、閉じられた空間でパニックが起きてからはもうジェットコースターばりにノンストップ! ハラハラしながら一気に読み通した。結局、実質2日かかってないぐらいじゃないか?
 いろんな設定もうまく効いているし、登場人物も効果的に配置されている。ショッキングなシーンとハードなアクション描写、息詰まるようなジリジリとした場面の緩急もお見事。かなり映像化向きの作品だろう。
 受賞作のオマケみたいな感じで収録されていて、思わず見落とすところだったぐらいなだけに、余計に衝撃的だった。思いもよらず、こんなところで傑作に出くわすとは。マジでここ数年に読んだホラー小説の中では、個人的に1・2を争う出来。いやー、本は最後まで読まないとダメですな(笑)。刺激が強いのは確かですが、かなりオススメですよ。
by keizozozo | 2009-08-18 19:48 | 読書


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